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中央大学教授の松田美佐さん

 家電や化粧品を買うとき、ご飯を食べに行くとき。ついつい気になるのがクチコミです。私たちはなぜクチコミをこれほど頼りにするのでしょうか。対面とネット、それぞれのクチコミの特徴は? うわさについて研究する松田美佐・中央大教授に聞きました。

「いい加減なことは言えない」

 人から人へ何らかの評判が伝わることは昔からありました。それをクチコミと呼ぶようになったのは、戦後、テレビなどのマスコミが普及しはじめた頃からです。マスコミが報じるのは基本的に大きな話です。クチコミは、例えば「近所の医者はどこがいい」というような、もっと身近な生活情報が人間関係を通じて伝わるものです。

 クチコミは互いの顔が見える関係性のなかで交わされます。なぜクチコミを伝えるかと言えば、まず話のネタになるからです。お互いの関心事なら、いい思いをした、嫌な思いをしたという経験は相手も必ず関心を持ちます。

 また、相手が役立つ経験を話してくれたのだから、自分も話をするという「互酬性」も働きます。親しい間柄で信頼関係がある上で話すので、お互いにいい加減なことは言えません。相手に質問もできるので、病院選びでもレストラン選びでも、対面のクチコミは判断材料にしやすいのです。

 私たちがネット上も含めてクチコミを頼りにするのは「選べる社会」になったからだと思います。成熟した消費社会のなかで、たくさんの選択肢の中から一つを選ぶ必要がある。自分で選べる楽しさがある半面、選択の責任は自分で取らなければなりません。

 例えば、家電製品です。かつては町の電器店で買うのが一般的でした。住んでいるエリアに限れば電器店にそれほど選択肢はありません。置いてある家電も少なく、価格は割高な場合もある。その代わり、なじみの電器店なら、その家庭に合った家電を提案してくれます。アフターサービスも充実しています。大型量販店が登場し、家電の選択肢は増え、安く買えるようにもなりましたが、選ぶ責任は本人が引き受けざるを得ません。

顔も名前も身ぶり手ぶりもわからないネットだけれど

 さらに、選ぶ時間やコストは…

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